一般社団法人大槌新聞社

新型コロナ、なめないで

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2021年9月3日

 「新型コロナウイルスはただの風邪」。そんな発言を聞くと、無性に腹が立ちます。感染した方々の今の苦しみ、そして今後の苦しみを思うと胸が苦しくなります。それは、私が同じような苦しみを経験してきたからです。

 今から20年以上前。大学生だった私は「劇症型心筋炎」という病気にかかり、集中治療室(ICU)に入りました。主に、かぜウイルスなどが心臓の筋肉に入って炎症を引き起こすとされる病気です。無症状や軽症で治る人がいる一方、まれに心機能が急激に悪化して、心不全や心停止になる人もいます。日本心臓財団のホームページによると、30年前までは救命もできなかった病気で、今も救命率は約半数にとどまるとされています。

 私は当時、潰瘍性大腸炎の治療で消化器内科に入院していました。絶食を始めて間もなく、吐き気がするようになりました。体が熱っぽくなり、夜は冷たい床に寝そべったほどです。主治医に体調不良を訴えても、特に対応してもらえませんでした。そのうち体を起こすことができなくなり、トイレに行く時は車いすを使うようになりました。

 そんな症状が1~2週間、続いたことは覚えていますが、ICUに入る直前のことは覚えていません。後日、看護師さんから聞いた話では、私は膀胱にたまった尿を体外に出すための管を着けられたそうです。ところが私はその管を引き抜き、看護師さんに怒られたといいます。その後、看護師さんの呼びかけに応じなくなり、血圧も急激に低下したことから、ICUに移されたそうです。

 その後、間もなく、私の心臓は二度、止まりました。両親が病院に駆け付けた時、私は白目をむいてベッドに横たわっていたそうです。「体の中が水浸し」で、鼻からは血混じりの泡を吹いていたといいます。医師からは「3回目(の心停止)が間もなく来ます」と告げられたそうです。両親は死を覚悟し、実家に残った家族らは葬儀の準備を始めました。

 ところが3回目の心停止は起こらず、意識不明の状態が4~5日間、続きました。医師からは「2度の心停止で脳にダメージを受けたはず。このまま心臓が動き続けたとしても、植物人間状態になるだろう」と告げられたといいます。

 人工呼吸器を着けている間は、薬で意識が薄れます。口から気管にチューブを入れっぱなしにするため、意識があると苦痛に耐えられないからです。そうした状況を知らない私は、「割りばしを噛まされ、口の中いっぱいに小石を詰められている」と勘違いしていました。とても苦しく、悪夢を見続けました。人工呼吸器を引き抜こうとして手をかけたところ、先生が飛んできて怒られた記憶があります。また、人工呼吸器を着けている間は声を出すことができません。医療関係者や家族とは筆談していたようですが、特にはじめの頃は意味不明なことばかり書いていたようで、私はそのこと自体、覚えていません。

 人工呼吸器の装着と同じくらい苦しかったのは、痰の吸引。人工呼吸器にカテーテルを入れて吸引するのですが、これがまた、例えようがないほど苦しい。自然と涙があふれ、寝たきりの体がバタつくほどでした。そして、ICUでの最後の苦しみは、人工呼吸器を抜く時。痰の吸引と同様、ほんの数秒の出来事なのですが、「口から臓器が引きずり出されるのでは」と思うほど怖かったです。

 ICUには1カ月ほどお世話になり、消化器内科に戻りました。私の身長は160cmですが、体重は40kgを切り、筋力が極度に低下。体を動かすどころか、字を書くことさえできなくなりました。長期間、寝たきりになったことで、頭や下肢には「床ずれ」ができました。髪が毛穴ごと抜け落ちた部分を縮める手術をしたり、足の壊死した組織を切り取ったりしました。最も深刻だったのは、致死性の不整脈が残ったことです。循環器内科に移り、不整脈を抑える薬を飲むことになりました。それでも知り合いの看護師からは、「よくICUから無事に出てこられたね。ほとんどの人は生きて出られないんだよ」と言われました。

 退院後も苦しみは続きます。動悸や息切れ、胸や背中の拘束感、強い倦怠感など、後遺症と思われる症状に悩まされましたが、医師に相談しても、まともに取り合ってもらえませんでした。獣医を目指して通っていた大学には二度、復学しましたが、体力は戻らず、潰瘍性大腸炎の再発も続いたため、退学せざるを得ませんでした。

 夢を失ったまま実家に戻り、20代のほとんどは入退院と通院の繰り返しでした。家族の負担は計り知れず、「自分さえ病気にならなければ」と自責の念に駆られました。大病を患う時期が早ければ早いほど、就職や結婚など、その後の人生に大きな影響を及ぼします。

 20年以上経った今も、食事やちょっとした家事で胸が苦しくなる時があります。軽い不整脈は日常茶飯事で、血の気が引くような不整脈も時々出ますが、病院に行っても心電図に引っかからなければ「様子見」になるため、「不整脈で死んだらそれまで」とあきらめるようになりました。

 新型コロナウイルス感染症で、ワクチンを打った方や、検査で陽性になった方が心筋炎になる例があると聞きました。後遺症を抱えて苦しんでいる方もいると知り、他人事とは思えません。万が一、感染したり、後遺症を抱えたりしても、適切な医療を受けられること。医療関係者をはじめ周囲の人には、患者を理解し、支えて欲しいと思います。

 とにかく新型コロナをなめないことです。東日本大震災の前、津波常襲地帯である大槌町では、「大きな地震があっても逃げずに家で寝ていた」と自慢する人がいました。自然災害や病気をなめてかかるような強がりは無意味なので、やめて欲しいなと思います。